東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)89号 判決
審決の取消事由の存否について判断する。
前示のとおり、本願商標は別紙のとおりの構成のものであるところ、これによれば、右構成中その中央部に大きな字体をもつて顕著に書されて配置された「金長饅頭」の文字部分は、その輪郭として構成されたたぬきの図形部分と観念的結び付きを有するものとして常に一体的に看者から認識されるものとはいえず(原告代表者岡武男尋問の結果によれば、右両部分を結び付けた構成は、阿波地方に伝わるタヌキ合戦の伝説に合戦の主役として金長タヌキが登場することに由来するとの事実を認めることができるが、本件全証拠によつても、右の由来が本願商標の付される商品の取引者、需要者に広く認識されているものとは認めることができない。)、右図形部分とあいまつて構成された本願商標の特徴的な部分として認識されることも多く、それ自体が独立して看者の注意を引くとともに、自他商品の識別標識としての機能を果たすものと認めることができる。そして、右「金長饅頭」の四文字は、ほぼ同一書体の同一の大きさで一連のものとして書されているものではあるが、「饅頭」の部分は本願商標が付される指定商品の一つである饅頭の普通名称であるから、取引者、需要者が本願商標に接するときは、右「饅頭」に冠して書された「金長」の文字部分のみに着目して、これから生じる「キンチヨウ」の称呼をもつて取引に当たることも決して少なくなく、本願商標からは「キンチヨウ」の称呼も生じるものと認めるのが経験則上相当である。
原告は、本願商標の「金長饅頭」の文字部分は判読が困難であるから、圧倒的に目立ち、かつ、親しみやすいたぬきの図形部分を排して、右文字部分のみが切離されて感得されることはない旨主張するが、右「金長饅頭」の字体は別紙のとおりであつて、通常の教育程度を有するものであれば、さしたる困難を感じることなく読解し得る程度の草書体をもつて書されているものと認められるから、原告の右主張は前提において失当であり、また、本願商標においてたぬきの図形部分が特徴的なものであるからといつて、「金長饅頭」の文字部分がこれから独立して特徴的な部分として認識されることを妨げるものではなく、結局、原告の右主張は採用できない。
そして、引用商標「金蝶」から「キンチヨウ」の称呼を生ずることは原告も認めるとおり明らかであるから、本願商標は「キンチヨウ」の称呼を共通にする点で引用商標と類似するといわねばならない。
なお原告は、原商標の使用の実情、その他本願商標の登録出願に至る経緯をあげて本願商標と引用商標とが非類似であることの根拠とする。成立につき争いのない甲第五、第六号証、証人高田孝四郎の証言、原告代表者岡武男尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、原告の代表者である訴外岡武男は、昭和五年ころから菓子・パン等の製造卸売業を営んできたものであるところ、昭和一二年ころから、本願商標と構成をほとんど同じくする商標を付して饅頭を販売するようになり、右商標につき、昭和二七年二月二六日、旧第四三類「饅頭」を指定商品として商標登録出願をして、昭和二九年二月二七日、登録第四四一二一三号をもつて登録を受け原商標の商標権者となつたが、原告会社の設立後は、原告において原商標を使用して饅頭を製造・販売し、右饅頭は徳島県の著名な土産品となるに至つており、その七割ほどが徳島県内に、その余が神戸、大阪、香川方面に卸されてきたものであつて、これが取引されるに当たつては、需要者の多くは「キンチヨウマンジユウ」と称呼するものの、「キンチヨウダヌキ」、「タヌキマンジユウ」等と称呼する者のほか、「キンチヨウ」ないし「キンチヨウサン」と称呼する者も少なくない事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。してみれば、原商標からは「キンチヨウ」の称呼も生じたものということができるから、かかる称呼を生じなかつたとの原告の主張は失当であつて、逆に、原商標とほとんど構成を同じくする本願商標についても同様に「キンチヨウ」の称呼を生じることを裏付けるものというべきである。また、成立につき争いのない甲第二、第三号証、第一四ないし第一六号証によれば、引用商標は、<1>饅頭を指定商品とし、正方形の枠内に、金色に彩色した蝶の図形とその周囲に配した「金蝶堂甘露」、「美濃名産」、「金蝶饅頭」の各文字を組合わせて成る登録第六一五三二号商標(大正二年一一月一三日登録)、及び、<2>旧第四三類「菓子及び麺麭の類」を指定商品とし、「金蝶堂」の文字を縦書きして成る登録第四一九五九五号商標(昭和二五年一二月八日登録出願、昭和二七年一二月一五日登録)に連合する商標として、昭和二七年一〇月三〇日、旧第四三類「菓子及び麺麭の類」を指定商品として登録出願され、昭和二九年二月二六日、登録第四四一一九二号をもつて登録(昭和四九年六月二〇日存続期間の更新登録)されたことが認められる。してみれば、原告の主張するとおり、原商標は右<1>及び<2>の登録商標が存するにもかかわらず登録されたものであり、引用商標はその先願として原商標の登録出願が存するにもかかわらず登録されたものであるけれども、右経緯をもつて、ただちに引用商標と原商標、したがつて、これと構成を同じくする本願商標の類否を論ずる根拠となし難いばかりか、本願商標と引用商標とが称呼上類似する事実を左右するものではない。また、右認定のように、原商標と引用商標ととは並存して登録されていたものであるところ、証人高田孝四郎の証言及び原告代表者岡武男の供述中には、右のとおり登録が並存していても、右両商標に係る商品の出所の混同を生じたことはなんらなく、顧客、取引先等から両商標が類似していて紛らわしいなどの苦情を寄せられたこともない旨の部分があるけれども、本件全証拠によつても、右両商標に係るそれぞれの商品が同一地方の市場において並存して取引されていたものとはうかがえないのであるから、右証拠をもつて、原商標、したがつて、これとほぼ構成を同じくする本願商標と引用商標とが類似する事実を揺がすものということはできない。原告の前示主張は、結局、採用できない。
したがつて、本願商標の「金長」の文字部分に自他商品の識別機能があり、該部分から「キンチヨウ」の称呼を生じ、引用商標と称呼を共通にする類似の商標であるとし、ひいては商標法第四条第一項第一一号の規定に該当するとした審決の判断は正当であり、審決を取消すべき事由はない。
以上のとおりであるので、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却する。
〔編註〕本件に関する商標は左のとおりである。
本願商標
<省略>
引用商標
<省略>